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女「電車が来るまで話そうよ」 男「はい?」


1: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 01:07:05.95 ID:mWKKcQiX0



「ねぇ?」

男「………………」

女「ねぇって」

男「……うん? 何?」

女「話そうよ」

男「は?」

女「電車が来るまで話そうよ」

男「はい?」



引用元
女「電車が来るまで話そうよ」 男「はい?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1331482020/

2: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 01:08:05.89 ID:mWKKcQiX0



女「わたしのこと覚えてるよね?」

男「あぁ。女さんでしょ? 知ってるよ。去年同じクラスだったからね」

女「そう。あんまり話さなかったけど」

男「……一度も話したこと無いと思うけど?」

女「ううん、ある。文化祭の準備の時と、体育祭の全員リレーの待ち時間に」

男「そうだっけ?」

女「そう。男くんは記憶力が悪いんだね」

男「うーん……覚えてない。何か別のことを考えてたのかもしれないね」

女「かもしれない。文化祭の時も体育祭の時も、話しかけても上の空みたいだった」

男「やっぱり?」

女「さっきも一度目で返事しなかった」

男「うん、考えごとしてたから」

女「何を考えてたの?」

男「別に。くだらないことだよ」

女「教えて?」

男「本当にくだらないことだよ?」

女「良いよ、電車が来るまでもう少しあるから。教えてよ」

男「……空について」

女「空?」






3: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 01:08:49.26 ID:mWKKcQiX0



男「空って、名前はあるけど、これが空です、って示せるものが無いよなぁ、って」

女「示せるもの? 空って、だって……」

男「雲が浮かんでて、夜には月と星が見える場所。だけど、空ってどこにあるんだろう?」

女「………………」

男「大抵の人は、建物から出て上を指差すと思う。君はどう?」

女「わたしも、きっとそうする」

男「だよね? でも、指差した先には何があるの?」

女「空……?」

男「空って、どれ? どこからどこまで?」

女「どれって……どこ……」

男「飛行機が飛んでいる場所が空? 僕たちが手を伸ばして届く場所は空? 月の浮かぶ場所が空?」

女「………………」

男「空は物としての存在が無いのに名前があって不思議だなって、そんなことを考えてた。だからすぐに返事出来なかったんだ」

女「男くん、変わってるね」

男「変わってる?」

女「うん、変わってる。普通の高校生はそんなこと考えないと思う」

男「普通……普通か」






4: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 01:09:17.05 ID:mWKKcQiX0



女「でも、わたし嫌いじゃないよ? そういうこと考えたりするの」

男「そうなんだ。じゃあ女さんも普通じゃないの?」

女「わたしは……どうだろう?」

男「さぁ? そもそも、僕は普通というものがわからないから」

女「普通って……一般的には、特に秀でている訳でも劣っている訳でもない、みたいな考えかな?」

男「そうだね。特徴が無い、という方が簡潔だと思う。凡人と言うと悪い言い方になるかもね」

女「凡人はちょっと悪口かも」

男「で、女さんの場合……女さんは、さっきの僕みたいに考えごとをすることはあるの?」

女「無いとは言えないかも。時々、男くんみたいに哲学的に物事を考える時もあったり」

男「僕は哲学的に考えてる訳じゃないけどね。いつもは考えない、たまに考える、と?」

女「うん」

男「じゃあ女さんの物差しで見た時、境界線にいるかもしれないね」

女「境界線?」

男「考えることは嫌いじゃない。時々は考える。さっき話した普通というカテゴリーから、身体が半分出てるって感じかな」

女「ふーん」

男「僕はいつもそういうことを考えてるし、考えるのが好きだから、普通というカテゴリーからは外れてるみたいだね」

女「そうだね。外れてるね」






5: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 01:10:34.56 ID:mWKKcQiX0



男「あ、電車来た。女さんもこっち?」

女「ううん、逆方向」

男「そっか。じゃあ、さよなら」

女「ねぇ、いつもこの時間に帰ってるの?」

男「大体そうだよ。僕は部活に入ってないから」

女「明日もこの時間?」

男「かもね」

女「じゃあまた明日、電車が来るまで話そうよ」

男「僕と話しててもつまらないと思うよ?」

女「さっき言ったでしょ? 男くんと同じ様なことを考えるのは嫌いじゃないって。それに、電車が来るまでの時間潰しだから」

男「ん……僕は一人で考えてる方が良い」

女「誰かと話しながらの方が考えはまとまるって、聞いたこと無い?」

男「別に考えをまとめたくて考えてるんじゃないから。僕はただ考えることが好きなんだ」

女「わたしも考えたい。一緒に考えさせてよ」

男「時間潰しに?」

女「そう。時間潰しに」

男「……電車に乗れなくなるからもう行くね。さよなら」






13: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 20:46:43.51 ID:64RffEKa0



女「やっぱり、昨日と同じこの時間なんだ?」

男「授業が終わる時間は毎日同じだから。特別なことが無い限りは毎日同じ電車を待ってる」

女「今日は何について考えてたの?」

男「言わないと駄目?」

女「まだ電車が来ないから」

男「時間潰し?」

女「そう」

男「うーん……今日は、車のタイヤについて考えてた」

女「タイヤ?」

男「うん、タイヤ」

女「それがどういう?」

男「タイヤ……車に取り付けられる前に工場で作られて、その原料はどこから来たんだろう、とか、原料を生産したりする人もいて、どんな生活を
  しているんだろう……僕はゴムの木とか見たこと無いからどんな木なんだろう。ゴムの木はどんな風に育てるんだろう、みたいなこと」

女「……昨日とは全然違うこと考えてたんだね? それって調べればわかるんじゃない?」

男「そりゃあ、いつも自然科学ばかりじゃないよ。どんなことでも興味があれば考えたい」

女「ふーん」

男「それに、確かに調べればわかるけど、僕は知識を増やしたい訳じゃない」






14: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 20:47:29.21 ID:64RffEKa0



女「考えることが好きだから?」

男「そう。だから、むしろ答えなんて出なくても良いと思ってる。ああなのかもしれない、それともこうなのかな? それだけで良いんだ」

女「でも、たまにはちゃんと知りたいと思わないの?」

男「思う時もあるよ。そういう時はきちんと調べる。ネットとか本とか読んで」

女「ふーん……他には」

男「他?」

女「今日はタイヤ以外に、他に考えてないの?」

男「……他は、特に」

女「……つまんない」

男「だから昨日言ったじゃないか。つまらないよって」

女「じゃあさ、お題出すから」

男「は?」

女「わたしがお題を出すから、それについて一緒に考えてよ」

男「えっと……どう考えるの?」

女「それは自由。電車が来るまでの時間潰しだから深くなくて良いの」

男「はぁ……」

女「まだ時間あるよね?」






15: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 20:48:14.43 ID:64RffEKa0



男「あと……五、六分だ」

女「じゃあ今日は……勉強」

男「勉強? 勉強について考えるの?」

女「そう。高校生のわたしたちにとってはしなくてはならないこと」

男「ふぅん……僕はしなくてはならないとは思わないけど」

女「何で?」

男「勉強なんてしたい人だけがすれば良い。そう考えてる」

女「でも男くんは高校に通ってる。それはどうなの?」

男「高校卒業という資格が存在する。それを取る為には通わないといけないから」

女「どうして高校卒業の資格を取りたいの?」

男「……さっきから僕の考えばかりじゃない?」

女「わたしの考えはさっき言ったよ。勉強はしなくてはならないことって」

男「どうしてしなくてはならないと思うの?」

女「どうしてって……高校に行って勉強するのが、わたしたちの年齢の人にとっては普通だし」

男「普通? 普通だから高校に行くの?」

女「じゃあ男くんは? 高校卒業の資格を取ることとどう違うの?」

男「僕は考えることを続けたいから。その為には生きることを継続しなければならない。生きることを継続するにはお金が必要だよ」






16: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 20:49:10.87 ID:64RffEKa0



女「うん、そうだね。衣食住を得る為にはお金が必要だね」

男「お金は仕事をすることで貰える。仕事に就くにはそれなりの経歴があれば選べると考えてる。そう、最低高卒という経歴がね」

女「それと勉強はしたい人だけがすれば……っていうのは繋がるの?」

男「勉強したくなければ学校に行かなければ良い。高校卒業したいなら少なからず勉強はするだろう。それはしなければならないんじゃなくて、
  卒業する為に勉強をしたいという考えになる」

女「勉強してる本人は勉強をしたいなんて考えてないかもしれないよ? 勉強しなければ落第するって思う人とか」

男「そんなもの捉える人によるよ。僕はそういう考え、他の人は他の人の考え」

女「物は言い様ってことだね」

男「正にそう。他の人の考えなんて参考にしかならない」

女「ふむ、男くんの考えは参考になるね」

男「からかってるね?」

女「本心だよ?」

男「どうだか……あぁ、電車来たから」

女「もう来たの? ……もう少しゆっくりで良いのに」

男「じゃあね。さよなら」

女「明日も同じ時間だよね?」

男「明日は土曜日。お休みだよ」

女「……うん、そうだった」






17: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 21:38:59.92 ID:64RffEKa0



男「………………」

女「あ、コーヒー。わたしも飲みたい」

男「……また女さんか。飲みたければ買えば良いじゃない」

女「お金無いから。お小遣い減らされちゃったし」

男「あぁそう」

女「今日は? 何を考えてたの?」

男「どうして君に言わないといけないかなぁ……」

女「だってここの電車、なかなか来ないんだもん。知ってる? 東京の電車って二分おきくらいで来るんだって」

男「それだけ乗る人がいるんでしょ。需要が無ければ供給する必要無いんだから」

女「そうだね。で、今日は?」

男「……僕が知らないAさんの存在について」

女「Aさん? 誰?」

男「架空に人。仮にAさんとして考えてた」

女「それで?」

男「……それで、Aさんがどこかにいるとして、僕がその人の存在を確認出来なければ、Aさんは存在しないことと同じかなぁ、って」

女「どういう意味?」

男「僕という存在が見ている世界に、Aさんの存在が確認されなければ、Aさんは存在しないことになる」






18: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 21:39:41.39 ID:64RffEKa0



女「だから、それはどういう意味?」

男「例えば……女さんは、高校に入る前に僕のことは知ってた?」

女「ううん。同中じゃないし」

男「だよね? ということは、女さんが中学生の時は女さんが居た世界に僕は存在してなかったことになる」

女「それおかしくない? だって男くんは違うどこかに居るし、どこかに居たから知り合ったんだよ?」

男「それ。重要なのは『居た』という考えだと僕は思う」

女「んん?」

男「女さんは、僕と知り合って初めて僕の存在を確認した。僕がどこかに『居た』ことを知ったんだ。その時点で、女さんの世界に僕が登場した」

女「男くんが『居た』ことを確認した……つまり、その前の段階?」

男「僕が考えていたのはその段階。知り合って、確認する前には存在が居るのかどうかわからない。存在がわからないということは、存在するとは
  言い切れないことと同じ。もちろん、いないとも言い切れない」

女「ふんふん」

男「だから、仮のAさんを知らなくて、どこに存在するかわからなくても、存在しないとは断言出来ない。曖昧のままに終わる問いなんだね」

女「出会わないとわからないってことなんだ?」

男「そうだね。その逆も僕は考えた」

女「逆?」

男「今まで交流があった人と会わなくなったとして、その人の存在が継続しているとは限らない」

女「……死んだかもしれないってこと?」






19: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 21:40:14.14 ID:64RffEKa0



男「その可能性もあるね。存在の継続を確認するには、連絡を取ってみるのが手っ取り早いか」

女「連絡が取れない場合は?」

男「考えは変わらないよ。連絡が取れなくても生きてるかもしれないし、もしかしたら死んでしまっているかもしれない」

女「………………」

男「存在を直接確認してみなければ、世界に存在しているのかわからない。その人を知っているかどうかの有無に、使う考え方の違いは無いと
  思う」

女「ふーん」

男「でも……今、一つだけわかることはあるよ」

女「何?」

男「女さんが、僕が感じている世界に存在してるってこと」

女「わたしが男くんの目の前に居て、その目で存在を確認してるからね」

男「そうだね」

女「わたしも、男くんが生きていることは確認出来る」

男「うん。でも、あと数分で電車が来る。僕たちが離れてしまえば、存在しているかはわからなくなる」

女「電話でもしてれば確認出来るよ」

男「電車内での電話はマナー違反だよ?」

女「言ってみただけ。男くんの番号知らないし」

男「僕も女さんの番号は知らない」






20: ◆hEntMxdkqA:2012/03/12(月) 21:40:53.49 ID:64RffEKa0



女「教えよっか?」

男「いや、いいよ。連絡することも無いし」

女「女の子からの有難い提案を断るんだ?」

男「何が有難いのかわからないけど、知る必要無いから」

女「何で?」

男「何でって……女さんに連絡しないし」

女「何で連絡しないの?」

男「何で連絡しないのって……別に話すことも無いし」

女「今話してるよ。話すことはあるよ?」

男「女さんが話そうって言ってきたんだろ? 僕からは無い」

女「じゃあ男くんの番号教えてよ。わたしから連絡するから」

男「………………」

女「番号。教えて」

男「……電車、来たから行くよ」

女「番号言って。登録するから」

男「――だよ。さよなら」

女「……登録したよ。またね」






30: ◆hEntMxdkqA:2012/03/13(火) 20:44:24.16 ID:Y2BxDh+I0



女「今日は?」

男「……今日は先に居るんだ。さっき女さんの乗る電車出なかった?」

女「乗れなかった。あと三メートルで」

男「それくらいドア開けてくれそうだけど……」

女「車掌さんがケチだったの。それで、今日は?」

男「今日は……そうだな、君の提案で話そうよ」

女「お題? わたしからで良いの?」

男「昨日は僕がずっと話してた。今日は君の番」

女「じゃあ毎日交代交代ね」

男「……それで良いよ」

女「じゃあね……今日は友達について考えよう」

男「友達……友達ね」

女「うん友達。どう考える?」

男「まずは女さんの考えからどうぞ」

女「わたしから?」

男「人に考えを訊く時はまず自分から。どうぞ」

女「友達……わたしは友達がいないと寂しいと思う。一人で居ると寂しい」






31: ◆hEntMxdkqA:2012/03/13(火) 20:45:09.69 ID:Y2BxDh+I0



男「なるほど。女さんは誰かと話すのが好きなの?」

女「うん、好き。友達と笑って話すのが好き……だった」

男「だった?」

女「……わたし、二年になってからこの前まで入院してたから、まだ二年のクラスに馴染めてない。仲の良かった子ともクラスが違っちゃったし」

男「あぁそう。じゃあ新しく一緒になった人と仲良くすれば?」

女「うん……でも、何だかグループに入りにくい。もう夏前で、秋になったら修学旅行だし……でも今更仲良くしてって、言いにくくて」

男「まぁ、そもそもそれは僕に言うべきことじゃないね。今は君とクラス違うし、友達もいないからどうやって仲良くすれば良いのかわからない」

女「男くん、誰ともあんまり話さなかったよね?」

男「誰かと話してるより、一人で何かを考えてる方が楽しいから。僕には、友達は必要無い」

女「わたしは友達とお話したいな。でも、入院しててずっと一人だったから、どうやったら仲良くなれるのかわかんなくなっちゃって……」

男「話しかければ良いじゃない」

女「簡単に言うんだね。どうやって話せば良いのかわからないって言ってるのに……」

男「僕には勝手に話しかけてるじゃない? あれは何なの?」

女「だって去年同じクラスだったし、ずっと見てたから……」

男「ろくに話したことも無い人間なのに?」

女「それでも、今のクラスの人よりは話しかけ易いと思ったの。一年の時は男くんとあんまり話せなかったけど、話のテンポが良くて話し易いし」

男「あぁそう。僕は好き勝手喋ってるだけなんだけどね」






32: ◆hEntMxdkqA:2012/03/13(火) 20:45:48.95 ID:Y2BxDh+I0



女「才能なんだね、きっと」

男「それはどうも。君にあげられるのならあげたいよ。僕には要らないものだ」

女「おもしろいね、男くんて」

男「そんなこと初めて言われたよ。女さんは普通の感覚じゃないみたいだね」

女「病院で検査してもらったんだけど、異常無しだって」

男「頭?」

女「頭。自転車に乗っててトラックに轢かれたの。だから入院してた。それからは怖くて自転車に乗れないから、今は電車通学」

男「あぁそう。大変だったね」

女「平たい言い方だよ。本当に大変だったねって思ってる?」

男「少しは思ってるよ」

女「少しなんだ。残りは何?」

男「僕には関係無いことだって思ってる」

女「男くん、薄情だね。わたしたち友達でしょ?」

男「……いつから友達になったの?」

女「先週から」

男「……電車、来るから。さよなら」

女「うん、また明日ね」






33: ◆hEntMxdkqA:2012/03/13(火) 22:00:34.17 ID:Y2BxDh+I0




女「今日は男くんからだよ」

男「何が?」

女「電車が来るまでの時間潰しのお話。そのお題出し」

男「考えてたこと……で良いの?」

女「うん、良いよ」

男「今日は……時間について考えてた」

女「時間時間……時計とかの時間だね」

男「僕の考え。時間は元々存在していないし、今も存在してないと思う」

女「時間が存在してない? でも、時間は時計でちゃんと決められてるよ? 今は四時十五分。いつもお話してる時間」

男「それは人間が決めた単位で計ったもの。自然界……それから人間が時間を作ろうと思う前までは、決められた時間なんて無かったはず」

女「うーん、そうかもね。自然には時間なんて無いもんね」

男「人間は一日を二十四時間という単位で計り、一年を三百六十五日と決めた。でも、本来そんな取り決めは無い。人間が、人間社会の中で
  作り出した最低の産物。僕はそう思う」

女「何で? 時間がそんなに嫌い?」

男「時間という物差しのおかげで、僕たちは今高校に通うことになってる。しばらくすると嫌が応にも大人というカテゴリーに配されて、社会に
  貢献するように仕向けられる。どうしてそうなるのかと言えば、生きてきた時間という何の参考にもならない物差しで計られてるから」

女「生きてきた時間が参考にならない……?」

男「僕はそう思う。人間が決めた年齢で言えば、五十歳でも人間社会に貢献出来ない人間もいるし、十歳でも何かの役に立つことが出来る。
  それを思えば、生きていた年数なんて参考にもならない。人間社会で大事なのは、その人間が誰かのプラスになるのかどうか、だ」

女「………………」






34: ◆hEntMxdkqA:2012/03/13(火) 22:01:11.03 ID:Y2BxDh+I0



男「つまらないでしょ? こんな話されても」

女「難しくて……よくわかんないけど、人間は自分で作った時間に苦しめられてるってこと?」

男「そうだね。自分たちが便利な様に作ったはずなのに、時間に追われたり、有効に使うべきなんて言ったり言われたり……時間を潰したりね」

女「……それ、わたしに言ってるんでしょ? そうやって言われるの、嫌い」

男「前に僕をからかっただろう?」

女「前に?」

男「僕は他の人の考えは参考にしかならないって言った。そのすぐ後に、君は僕の考えは参考になるって」

女「……あぁ。あれは違うよ。からかったんじゃなくて、わたしは本当にそう思ったの」

男「あぁそう。別に良いけど」

女「別に良いって言う割には、今日まで根に持ってたんだ?」

男「もう気は済んだよ。……今日ずっと時間について考えてたのは、女さんの時間潰しっていう言葉がきっかけだったんだ」

女「そうなんだ?」

男「正確に言えば、昨日女さんと別れて電車に乗った時から考えてた」

女「ふーん」

男「時間なんてものがあるから、時間潰しという考えが生まれてしまうんじゃないかな、って。そこから時間について考え出した」

女「そうかもね。時間というものが無ければ、潰す必要は無いだろうから」

男「僕もそう思う。だから、電車が来るまで……あと三分は時間を潰さなくちゃいけない。話すなり、考えるなりしながら」






35: ◆hEntMxdkqA:2012/03/13(火) 22:01:41.89 ID:Y2BxDh+I0



女「でも、時間が無いとすると電車を待つ必要は無くなるの? わたしはそうは思えないけど……」

男「人間社会とすれば時間は無くてはならないものになってしまった。時間が無ければ電車の時刻表は作れない。待ち合わせも出来ない」

女「あ、そっか」

男「時間が作られていない頃なら、好きなタイミングに食べて、好きなタイミングに寝る。時間が設定されている世の中では、学校とか仕事を元に
  スケジュールを決める。この設定を変えることは、人間社会が存続する限りほとんど不可能だ。時間は便利だけど、苦しめられる場合もある」

女「……時間というしがらみから、人間は逃れられないんだね」

男「生きている限りは、ね」

女「……そうだね」

男「そろそろ電車が来そうだから、僕は行くね。さよなら」

女「……ねぇ?」

男「うん?」

女「何で……考えることが好きなの?」

男「さぁ? 何でだろうね」

女「どうして考えることが好きなのか、考えたこと無いの?」

男「……あるよ」

女「どう考えたの? 結論は出たの?」

男「……もう電車が来るから。さよなら」

女「……うん。またね」






40: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 18:17:06.71 ID:YNC+dEpq0




男「コーヒー飲んでるの? お金無いんじゃなかった?」

女「入院したからお小遣い減らされたの。でも、缶コーヒー買うくらいなら持ってる」

男「あぁそう」

女「そういえば、今日廊下ですれ違ったのに無視したよね?」

男「無視はしてないよ。声掛けなかっただけ」

女「わたしの方向いてなかったみたいだった。ちゃんと見た?」

男「女さんだ、って思ったよ。でも、話すことも無いからそのまま通り過ぎた」

女「男くん、やっぱり薄情だね」

男「あぁそう。どう思われようと別に構わないよ」

女「ふーん」

男「………………」

女「……ねぇ?」

男「何?」

女「何か話そうよ。時間潰しに」

男「何も話さなくても時間は潰れるよ」

女「昨日は男くんが時間の話をしたんだよね」

男「そう……だった様な気がする」






41: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 18:17:35.67 ID:YNC+dEpq0



女「男くん、やっぱり記憶力が悪いんだ?」

男「どうでも良いことは覚えていられないんだよ」

女「ふーん、わたしとの会話はどうでも良いことだと思ってるの?」

男「何か気に障った?」

女「そりゃね、わたしも女の子だし。どうでも良いなんて言われたら腹は立つよ」

男「あぁそう。そういうものなんだ」

女「……男くん、わたしのこと嫌い?」

男「いいや。嫌いじゃない」

女「嫌いじゃない……だけ?」

男「うん、だけ」

女「……ふーん」

男「僕もコーヒー飲もうかな。喉渇いたし」

女「わたしの飲みかけで良ければ、飲む?」

男「カフェオレ? いや、ブラックが良いな」

女「ブラック飲むの? 大人だね」

男「甘いのが嫌いなだけ……よいしょ」

女「……もうすぐ期末だね。勉強してる?」






42: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 18:18:16.77 ID:YNC+dEpq0



男「赤点にならない程度にはしてるよ」

女「男くん、一年の時は学年でも結構上位だったよね? この前の中間の順位は?」

男「二十番」

女「ふーん……わたし入院してて中間受けてないから、期末落とすと赤点かなぁ……」

男「長期で休んだ人への何らかの配慮は無いの?」

女「先生に期末頑張れって言われただけ。何か替わりのテストがあるのかと思ったけど、何も言われてない」

男「じゃあ期末を頑張れば良いんじゃないの?」

女「うーん……ねぇ男くん、勉強教えてよ」

男「はい?」

女「勉強、教えてよ。一学期の半分も休んじゃったから、付いてくのがきついの。学年二十番の男くんに教えてもらえないかな?」

男「嫌だよ。他の人に頼んでよ」

女「今ちょっとも考えなかったでしょ? 薄情過ぎだよ」

男「僕の時間が無くなる。それは嫌だ」

女「男くんの時間? どうせ考えごとするだけでしょ?」

男「僕にとって好きなことと、それに対する時間が無くなるってわかってるじゃないか。君も大概酷い人間だよ?」

女「じゃあ友達が赤点取って、夏休みに補習を受ければ良いと思ってるの?」

男「そうは思ってない。でも僕には頼らないでほしい」






43: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 18:18:53.29 ID:YNC+dEpq0



女「考えごとなんてどこでも出来るでしょ? なら自習室とか、図書室でも、わたしが勉強してる横で考えれば良いよ」

男「……で、君がわからない箇所があったら訊く、と?」

女「そういうこと。教えてもらいたいところだけ訊くから。それ以外では考えごとしてて良いし」

男「じゃあやっぱり僕じゃなくても良いじゃないか」

女「わたしの友達の中で、一番順位が上なのが男くんだから。他はみんな百番以下だし」

男「……それならみんなで勉強会した方が良いんじゃない?」

女「わたしだけ勉強特に遅れてるし、みんなが集まったらいつものパーティになっちゃうし」

男「パーティなんてしてるの? ここ毎日駅の待合室で僕と話してるけど」

女「……最近してない。誘われないから」

男「あぁそう。じゃあみんなにやろうって誘えば良いじゃない」

女「………………」

男「うん? 何で黙るの?」

女「わたし……いつも誘ってもらう方だったから、断られたらどうしようって……」

男「そんなこと気にするんだ。やっぱり友達って面倒だね」

女「ほんとに、今まで友達とどう付き合ってたかわかんなくなっちゃった……」

男「電車来るから僕は行くね。さよなら」

女「……男くんはやっぱり薄情だよ。また明日ね」






44: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 19:17:35.48 ID:YNC+dEpq0



男「はい、もしもし」

女『男くん? 今どこ?』

男「今? 帰り道。駅に向かう途中」

女『踏み切りは通り過ぎた?』

男「んん? まだだけど、もうすぐそこにあるよ」

女『そう、良かった。すぐに行くから、その辺で待っててくれる?』

男「何で?」

女『今日も話したいの。あー、じゃあ追い付くまでこのまま携帯で話してても良いかな?』

男「別に良いけど……女さんは今どこに?」

女『もうすぐ学校出るとこ。先生に中間受けてないって話をもう一回してきたから遅れちゃった』

男「あぁそう。それで何だって?」

女『うん、休んだ理由が交通事故だし、期末も多少は大目に見てくれるって』

男「へぇ、良かったじゃん」

女『うん、良かった。で、勉強教えてくれる?』

男「はい?」

女『成績落ちたら、またお小遣いが減っちゃうかもしれないから。ねぇ、男くんお願い?』

男「嫌だって。自分で頑張ってよ」






45: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 19:18:16.03 ID:YNC+dEpq0



女「わたしのこと、やっぱり嫌いなの?」

男「そうじゃな……あれ?」

女「嫌い? 一緒にいるのも嫌?」

男「……ごほん、追い付いたなら何か言ってよ」

女「わたしのこと、嫌い? 答えて?」

男「前も言ったよ。嫌いじゃない」

女「好きか嫌いか、その二つだとどっち?」

男「……嫌い」

女「……何で?」

男「僕に話しかけてくるから……だね」

女「……何で?」

男「何で? そんなことも言わないとわからないの?」

女「はっきり言葉にしてもらわないと、わたしわかんない」

男「ふむ……」

女「んん? どったの?」

男「ちょっと興味が……湧いてきたかも」

女「何に?」






46: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 19:18:57.11 ID:YNC+dEpq0



男「僕の目の前にいる人、に」

女「わたしに? 興味が?」

男「そう。女さんに興味が湧いてきた」

女「どんなところに?」

男「女さんは、とても人間臭い」

女「……? よくわかんない。わたし人間だよ? 人間臭くて当たり前じゃない?」

男「今は僕の言葉が足りなかったね……僕が考える人間の思考思想行動に、女さんは限りなく沿っている、と思ったんだ」

女「男くんが考える人間の……何?」

男「思考と思想と行動」

女「……思考と思想と、行動? まだわかんないけど……」

男「昨日はどっちからのお題だったっけ?」

女「昨日は……雑談で終わっちゃったっけ? どっちでもないかも」

男「その前は覚えてる?」

女「あー、男くんが時間について語った……かな?」

男「じゃあ今日も話すとしたら、女さんからのお題で」

女「わたしから……じゃあ、その人間の何とかで」

男「それは次回の僕の番に回そうよ。その時に話すから」






47: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 19:19:57.78 ID:YNC+dEpq0



女「えー……じゃあ、えーと……」

男「この時間だと駅に着いたらすぐ電車に乗れそうだ」

女「電車一本ずらしてよ。わたしもずらすから」

男「趣旨がずれてるよ。電車を待つ時間を潰す為に話してたんだろ? 僕は電車はずらさないし、女さんも趣旨もずらさないで」

女「うまいこと言うんだね。アイス食べない? コンビニ寄って行こうよ」

男「僕は各駅に乗るから、一本逃すと十五分待たなきゃいけないんだよ。それにアイスもあんまり好きじゃないし」

女「十五分は食べる時間あるんだね。余裕だよ」

男「僕の話聞いてる? あーもう引っ張んないでよ」

女「わぁ、中は涼しいね。何食べようかぁなぁ……」

男「はぁ……コーヒーでも買うか」

女「パピコにする? 一緒に食べようよぅ」

男「はいはいお好きにどうぞ」

女「じゃあね……パピコとガリガリ君にする」

男「二つも食べるの? お腹冷えるよ?」

女「パピコは半分あげるね。わたしの分はお持ち帰りするから大丈夫」

男「パピコのチョココーヒー……甘そうだな」

女「アイスなんだから甘いに決まってるじゃん? さ、お会計しよ?」






48: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 19:21:15.05 ID:YNC+dEpq0



男「それで、お題は考えた?」

女「そうだねぇ……うん、思い付いたよ」

男「何?」

女「暑いとアイスが食べたくなるのは何故か」

男「………………」

女「……あれ? 無反応?」

男「僕には該当しない疑問だから、ちょっと思考が回らないね」

女「うーん、みんなそうだと思うんだけどなぁ」

男「どうして、みんなそうだと思うの?」

女「だって……ちょっと待ってね、えーと……身体の熱を冷まそうとする本能だよ! うん!」

男「なるほどね。でも、何でアイスなの?」

女「んん? 駄目?」

男「アイスじゃなくても、氷とか冷たい飲み物でも良いじゃない?」

女「それは……みんなが好き……でもないか。男くんはアイス好きじゃないって言ってたね」

男「まぁね。アイスだと、みんなが納得する様な結論にはならないと思う」

女「むぅ……じゃあ男くんならどう考える?」

男「僕? そうだな……」






49: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 19:21:53.90 ID:YNC+dEpq0



女「冷たっ! あーあ、溶けてきちゃった。ベトベトだぁ……ちゅっ、ちゅる」

男「ティッシュあげようか?」

女「大丈夫。持ってる……やっぱごめん、手がベトベトで出せないから頂戴?」

男「……はい」

女「どうもありがとう。話、続けて?」

男「うん……僕が考えるに、女さんが考えた身体の熱を冷ます本能も、アイスを食べたくなるのことも、楽になりたいからだと思う」

女「楽になりたい?」

男「そう。何でそう考えたかと言うと、身体が熱っぽいと楽じゃないから、脳は冷たいものを欲しがった。女さんの心は冷たいものが欲しいと言う
  脳の感覚を受け取って、アイスという好きなものを選んだ。好きなものを選んだのは、それを食べることが楽しいから」

女「ふんふん、確かにアイスはおいしいから、食べるのは楽しいね」

男「趣味でストレス解消と言うように、楽しいことは総じて心が楽だと思う」

女「確かに。それは納得出来るよ」

男「人間は脳も心も楽が好きだから、苦しいことは出来るだけ回避しようとするんだね」

女「苦しいことが好きな人なんて、ただの変態さんだよ」

男「ふむ……スポーツ選手とかはどうなんだろうね。苦しんで身体を鍛えて、記録を出さないといけない。まぁ、仕事だと割り切れば良いのかな」

女「でもよく聞くけど、スポーツ選手はマゾばっかりって。苦しんで練習した分記録が伸びて、それが快感になってるとか」

男「スポーツ選手は変態ばかりか。苦しみがいつか楽しみに繋がる……そんなことかね」

女「楽しみに繋がらなかったら最悪だね。苦しみ損って感じ」






50: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 19:23:06.32 ID:YNC+dEpq0



男「………………」

女「……怖い顔してどしたの?」

男「……いや、女さんの言葉がね、なかなか痛いところ突いてくると思って」

女「んん? えーと、苦しみが楽しみに繋がらなかったら?」

男「……苦しみ損」

女「……男くん、何か苦しいことやってるの?」

男「やってると言えばやってる。それがいつか楽しみに繋がるかどうかはわからない」

女「ふーん。何やってるの?」

男「……内緒」

女「気になるなぁ。ねぇねぇ、ちょっとで良いから教えてよ?」

男「女さんの乗る電車行っちゃったよ? 何で乗らなかったの?」

女「……だって、まだ話したいから」

男「あぁそう。でも僕の乗る電車が来るから今日はお仕舞い」

女「次は月曜日だね?」

男「来週から自習室で勉強でもしてなよ。その間に僕は一人で帰る」

女「薄情者!」

男「何とでもどうぞ。さよなら」






51: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 21:59:39.36 ID:HnzIi2/w0




女「雨って嫌だよね? 早く帰りたくなっちゃうよ」

男「……それが僕を待ち伏せてた理由?」

女「駅の待合室だけだとさ、話せる時間が限られてるじゃん? でも校門から一緒ならもっと話せるし」

男「僕と話すのは電車が来るまでの時間潰しでしょ? 電車を待つ場所だけで良いじゃない?」

女「細かいことは良いのっ。今日は男くんが考える人間の……何とかだよ?」

男「君も覚えてないじゃん……人間の思考思想行動」

女「そう。それ」

男「はぁ……」

女「溜め息吐くと幸せが逃げちゃうから駄目。男くん、わたしに興味あるんでしょ? 人間臭いとか言って」

男「そうだね……あの時は、僕が女さんを嫌いな理由を訊いてたんだね」

女「話しかけるから嫌いって言われた。でも男くんだって矛盾してるよ」

男「何が?」

女「わたしのこと嫌いなのに興味があるってどういうこと? 男くんってツンデレなの?」

男「それってツンデレ? ……まぁどっちでも良いけど、順を追って話そうか」

女「うん、そうして」

男「まず、僕が女さんをどちらかと言えば嫌いな理由……それは僕に話しかけてくるから」

女「何で話しかけると嫌いになるの?」






52: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 22:00:52.66 ID:HnzIi2/w0



男「僕の好きなことは知ってるね?」

女「考えること、だよね?」

男「そう。で、話しかけられると僕の好きな考える時間が潰される。だから、雑談を持ちかけてくる人は嫌い」

女「話すくらい良いじゃん。友達なんだから」

男「……早速脱線しそうだけど、次。僕が女さんに興味を持った理由」

女「うん、それが一番聞きたかった。何で?」

男「……それだよ」

女「んん?」

男「『何で?』っていう疑問をぶつけてくるところ。それがとても人間臭いと思ったんだ」

女「……何で?」

男「くっくっく……逆に訊くよ。何で知りたいの?」

女「え……だって知りたいもん」

男「そうだね、疑問は解消したいよね? それが、僕の考える人間の思想なんだと思う」

女「うーん……」

男「人間が人間たるには、常に疑問を持ってそれを解消する為に行動し続けることだと僕は思う。過去先人がそうしてきたからこそ現在の文明が
  あって、科学技術も発展してきた。何で? どうして? どうすれば? そういう無限の知識欲を持つものが人間だと僕は考えてる」

女「知識欲……わたしそんなに難しいこと考えてないよ?」

男「知識欲は決して文明の発達だけに必要だとかご立派な学者だけが持つものじゃない。自分が疑問に思ったことを解消する。わからないことは
  わからないと認識して、知る為の行動を取る。それも立派な知識欲じゃないかと思う」






53: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 22:02:14.20 ID:HnzIi2/w0



女「ふーん、それなら男くんもそうじゃない? いっつも考えてるし」

男「僕は……その考えにはあまり当てはまらないと自分で思ってる」

女「そうかな?」

男「僕は考えることが好きで、知識を増やすことにはあまり興味が無い。知りたいと思うことはある……けど、それは今知ることが出来ない」

女「今知ることが出来ないこと……? 高校じゃなくて、大学とかで勉強すること?」

男「勉強は必要無い……何も必要無いよ」

女「何も必要無いの? なのに知ることが出来ないの?」

男「……止めよう。あんまり話したくない内容だから」

女「……何だかなぁ。アンニュイな感じ? 男くん、だからみんなに不思議くんって言われちゃうんだよ」

男「あぁそう。そんな風に言われてるんだ?」

女「誰とも話さないし、いっつもぼーっとしてたし、お昼休みは校庭のベンチにいたでしょ? 一匹狼なんて今時流行らないよ」

男「何て言われたって構わないよ。僕はそれが楽だからやってるんだ」

女「みんなで青春しようよぅ。高校生の時間は今だけだよ?」

男「そんなのしたい人だけでしてよ。僕は誰とも一緒にいたくない」

女「……それじゃつまんないよ」

男「僕はその方が良い。それに、誰の青春の中に僕がいなくても誰も困らないよ」

女「……困るって言ったら?」






54: ◆hEntMxdkqA:2012/03/14(水) 22:03:32.76 ID:HnzIi2/w0



男「誰が?」

女「………………」

男「女さん?」

女「……わたしが困る」

男「うん?」

女「……わたしが困るよ。男くんがいなかったら困るよ!」

男「あぁそう」

女「あぁそう? 何それ? 何でそんな軽い言い方するの!?」

男「僕の心からの反応だよ。僕からも訊くけど、僕がいなくて女さんはどうして困るの?」

女「わたし言ったよ? 高校生の時間は青春だって。わたしは青春を無駄にしたくない。男くんとも、もっとお話したいよ」

男「僕も言ったよ。誰とも一緒にいたくないって」

女「……わたしはお話したい。もっともっと男くんのこと知りたいよ……何を考えてるのか理解したいよ」

男「僕を知る……? どうして?」

女「そんなこともっ! 言わなきゃわかんないの!?」

男「……わからないよ。あ、電車来たから」

女「行きたいなら行ってよ……でも、また明日話そうよ?」

男「……わかった。さよなら」






62: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 01:26:22.65 ID:4VF4fJa90




女「ずっと雨だね……」

男「そうだね。昨日から全然止まないな」

女「コンビニ寄ってく?」

男「いや。この天気じゃアイスも食べたくないでしょ?」

女「うん、そんな気分じゃない」

男「他に何か欲しいものでもあるの?」

女「特に無い。ちょっと言ってみただけ」

男「あぁそう」

女「……ねぇ?」

男「何?」

女「わたしのこと、やっぱり嫌い……?」

男「どうしてそう何度も訊くの? もしかして好きって言ってほしいの?」

女「……うん」

男「………………」

女「ねぇ、言って? 好きって、言ってよ」

男「……無理だよ。だって――」

女「だって……話しかけてくるから?」






63: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 01:27:11.38 ID:4VF4fJa90



男「もうそれはいい。君については諦めたよ」

女「じゃあ、どうして無理なの?」

男「僕は君が好きじゃない。君がいると、僕が存在していることを嫌でも感じてしまうから……」

女「また、男くんの言ってることが良くわからないよ」

男「『我思う、ゆえに我あり』。聞いたことある?」

女「え、う、うん。誰だったか哲学者が言ってた言葉でしょ?」

男「フランスの哲学者、デカルトだよ。これ程までに真理を突いた言葉は無い。だから、僕はその言葉が嫌いだ」

女「真理を突いてる?」

男「世界の全てを疑おうとも、疑っている自分自身の存在を疑うことは出来ない。その言葉はそういう解釈となっている」

女「……それがどうして、わたしを好きじゃないことに繋がるの?」

男「君がどうして僕と話したがるのか知らないけど、どうして話しかけられるのかと言えば僕が存在しているからだ。でも、僕は存在しないと考える
  ことが継続出来ない。『我思う、ゆえに我あり』を一番簡単に解釈すると、考えている自分がいる」

女「………………」

男「自分の存在がある限りはその他の存在から逃げることが出来ない。でも、考えるには自分の存在が必要だ。本当に、絶望的な状態だよ」

女「そこまで……嫌うこと、ないじゃん……」

男「仕方ないと思うことにするよ。諦めて女さんの気が済むまで話そうと思う」

女「……わたしの気が済まなかったら、ずっと一緒でも良いってこと?」

男「僕の言葉を都合良く解釈するんだね? 長くても高校生が終わるまでだよ」






64: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 01:28:22.15 ID:4VF4fJa90



女「……良いよ、とりあえずそれでも。ずっと話そうよ」

男「電車が来るまでの時間潰しだよ。その時間は女さんにあげる。校門から一緒でも、どうせ三十分にも満たない時間だから」

女「ねぇ、男くんは……誰かを好きになったりしないの?」

男「突然だね……僕にはわからないよ」

女「今まで、十七年生きてきて、好きになった人っていないの?」

男「……今思えば、いなかったと思う。可愛いなって思う人は居たよ。でも、それは愛情じゃなかったと思う」

女「………………」

男「僕には何かを好きになるという気持ちがわからない。今まで何も好きになったことが無いから」

女「考えることは好き、何だよね? 何も好きになったことが無いわけじゃ無いでしょ?」

男「どうだろう……考えることは僕にとって楽なだけかもしれない。他のことは苦痛で、たまたま考えることは苦痛じゃなかった。そのレベルだよ」

女「前も聞いたけど、どうして考えることが好き……楽なの?」

男「……生きている存在にとって、極端な話だよ?」

女「うん……良いよ?」

男「僕もいつか、死んでしまうから」

女「………………」

男「僕だけじゃない。僕だって女さんだって、家族だって……いつか必ず死んでしまう。だったら、何をやっても意味が無いじゃないか……僕は
  何をやっていてもそう思ってしまうんだ。本当は何もしたくない……考えることだけは楽だった。それだけ」

女「それはだって、当たり前だもん。生きている人は死んじゃうよ。死ななかったら、生きてることにならないよ?」






65: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 01:30:12.06 ID:4VF4fJa90



男「………………」

女「……男くん?」

男「矛盾だよ」

女「え?」

男「言ってることが一つじゃなかったよ。どっちが先なの? 生きてるから? 死ぬから?」

女「何? 何が……?」

男「生きているといつか死ぬの? それとも、死んだという結果が生きていたことの証明になるの?」

女「……え?」

男「一体どっちが先なんだろう……どっちだ……?」

女「生きていた……ことの証明……何の話?」

男「それは……でも……正しくない……知らない……結果が……でも……」

女「ねぇ、男くん? ねぇ……ねぇ!」

男「どっち……あいつは……でも……いや……」

女「男くん!!」

男「――あぁ。うん……ごめん。この時間は、女さんにあげるんだったね。ごめん、早速守れてなかった」

女「……今の男くん、怖かったよ。目は開いてるのに何も見てないみたいだった」

男「周りはちゃんと見てるよ。階段上ってたでしょ?」






66: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 01:31:16.19 ID:4VF4fJa90



女「そうじゃないって。隣にいる女の子を無視するなんて最低。ちゃんとわたしを見てよ」

男「大丈夫だよ。ちゃんとわかってる。ちゃんと感じてる。僕の隣には女さんがいるよ」

女「うん……なら良い。一人だけで考えないで? もっと話そうよ」

男「話……あぁ、やっぱり、僕は君に話すことが無いよ。何を話して良いのかわからない」

女「普通の話で良いの。何が好きとか嫌いとか、おもしろいテレビとか」

男「さっきも言ったよ。この世界に好きなものなんて無い。テレビも見ない。そんなの興味が無いよ。何も……何も……」

女「興味のあること、無いの? 何にも、無いの?」

男「………………」

女「無い?」

男「……君がどうして、僕と話したがるのか。それに少し興味がある」

女「それは……」

男「君は僕に興味があるみたいだ。そう感じる」

女「………………」

男「自意識過剰かな? もし違っていたら、思い切り引っ叩いてくれないか? きっと目が醒める」

女「……しないよ。わたしは叩きたくないよ」

男「それなら、僕は……」

女「……何?」






67: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 01:34:47.15 ID:4VF4fJa90



男「こうしたら、君は僕を嫌いになってくれる?」

女「お、男く……んんっ――!?」

男「ん……ふっ……柔らかいね。それにとても甘い。飴でも舐めてたの?」

女「あ、はっ、はぁ……」

男「僕なんかに無理やりキスされれば、嫌いになってくれるだろ?」

女「……ファーストキス……だったのに」

男「酷い人間だろ? もう近付きたくないと思ってよ」

女「……わたし、嫌じゃないよ」

男「………………」

女「突然だったから、わたし、びっくりしちゃったけど……嫌じゃなかったよ。男くんなら嫌じゃない」

男「君は……変だよ。頭がおかしいよ」

女「男くんに言われたくない。それに、男くんを好きになった時点でわたしは普通じゃないもん」

男「好き……?」

女「好き、だよ。一緒に居たいよ。もっとお話したいよ。手を繋いで一緒に歩きたいよ。キスだって……たくさんたくさんしたい」

男「………………」

女「わたしを見てよ。ねぇ、わたしを好きになってよ!」

男「僕は君のことも、君と一緒に居る僕自身も嫌いだよ。もう電車が来るから。さよなら」






71: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 16:54:44.79 ID:n2w1KrsP0




女「あ、やっと来た」

男「……いつも早いんだね」

女「うちのクラス、帰りのホームルームほとんどやんないから」

男「ふぅん……で、何で今日もいるの?」

女「昨日言ったじゃん。もう言ったからには、はっきり行動に出るからね」

男「あぁそう」

女「じゃあ早速……手、繋ご?」

男「……人がいるよ?」

女「別に良いよ。知らない人だし」

男「……はい」

女「えへへ……あったかい。わたしのこと嫌いって言うわりには、今日も一緒に帰ってくれるんだ?」

男「僕も昨日言ったよ? この時間はあげるって」

女「それで手も繋いでくれるんだね? サービス良いなぁ」

男「別に……気が向いただけだよ」

女「ツンデレだね。嫌いって言ってるのも、実は好きってことかなぁ?」

男「それは無いよ。好きか嫌いかなら、嫌い。つまりそれ程嫌ってるわけじゃない」

女「んふふっ、やっぱりツンデレだぁ」






72: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 16:55:14.19 ID:n2w1KrsP0



男「だから、違うって」

女「はいはい、わかってますよぅ」

男「わかってなさそうだね。手を繋ぐの止めるよ」

女「あ、離しちゃ駄目だよ……んもう!」

男「手は他の誰かと繋いで」

女「男くん以外と繋がないよ。繋ぎたくない。話だって、あんまりしたくない」

男「じゃあ女友達作りなよ。笑って話するのが好きなんだろ?」

女「それはもう良いかなって。男くんといられればもう良いよ」

男「僕としては良くないから」

女「何で?」

男「……何度も言ってるだろ?」

女「知らないもん。わたしは都合の悪いことは知らないの」

男「あぁ……ますます君が人間だって思えてくるよ。自分の気持ちが最優先なんだね」

女「そんなの当然だよっ」

男「はぁ……威張るなよ」

女「コンビニ寄ろう? 今日は晴れて暑いからアイス食べたくなっちゃった」

男「だから引っ張んないでって……ちゃんとついてくから」






73: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 16:56:02.54 ID:n2w1KrsP0



女「パピコおいしいね」

男「甘いよコレ……甘過ぎるよ……」

女「……昨日のわたしと、どっちが甘い?」

男「は?」

女「ねぇねぇ、どっちがおいしい? わたし? わたしでしょ?」

男「君は食べ物じゃないだろ?」

女「もう一回キスする? それか……わたしを食べても良いよ?」

男「そういう話は止めなよ。別の人にでも言えば?」

女「わたしを怒らせたいんだね? よぅしわかった! わたししか食べられない身体にしてあげる!」

男「どういう意味だよ……」

女「エッチな意味だよ。わかってるくせに」

男「……君のイメージが変わってきたよ」

女「そうなの? どんなイメージだった?」

男「うーん……同じクラスだった一年の時は、大人しくて、友達に依存する様なイメージを持ってた」

女「そっかぁ……うん、合ってるよ」

男「この前から話すようになってからは、少し印象が変わった。こんなに明るい人だったんだって」

女「そうかそうかぁ……ひひっ」






74: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 16:56:53.58 ID:n2w1KrsP0



男「そして今、完全に変わったよ。女さんはむっつりスケベなんじゃないかって。それも相当な」

女「………………」

男「反論があるなら聞くよ。あるならね」

女「……無いです」

男「あぁそう」

女「無い、けど、付け加えるよ。わたし、男くんに対してはオープンだからねっ!」

男「大声で言うようなことじゃないよ。余計にイメージダウン。それに恥ずかしいから僕の名前は出さないで」

女「じゃあ耳元で言ってあげる……動かないで?」

男「お、おい……さ、触るなよ」

女「ねぇ……しようよ?」

男「……っ!」

女「わ! どしたの?」

男「い、いや……吐息が耳に……」

女「男くん……耳、弱いの?」

男「知るかよ。けど、今のはくすぐったかった」

女「……ふぅ」

男「おい! やめろって!」

女「顔真っ赤だぁ……かわいい」

男「う、うるさい! 電車は……くそっ、まだ来ねぇ」






75: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 16:57:29.94 ID:n2w1KrsP0



女「あ……ね、ねぇ、わたし気付いちゃったけど……」

男「な、何を?」

女「その……ズボンがね」

男「は、はぁ? ズボンがどうしたんだよ?」

女「その……膨らんでて……」

男「こ、これは……生理現象で……」

女「……あ、あのね、じ、実はね」

男「今度は何だよ?」

女「わ、わたしも……ちょっと……」

男「あ?」

女「……濡れちゃってたり、して」

男「………………」

女「そ、そんなに露骨に嫌そうな顔しないでっ! しょうがないじゃん好きな人がこんなに近くにいて、そ、その……肩だけど、触ってるし……」

男「……あー、もう!」

女「えっ、えっ、何?」

男「エロ禁止! 僕の身が保たないんだよ!!」

女「も、保たない……? それなら、解放すれば良いと思う……けど?」






76: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 16:59:02.28 ID:n2w1KrsP0



男「うるせぇ! 黙れっ!」

女「ひ、酷いよぅ……黙らせたいなら、き、キスすれば? ほらっ!」

男「やめろっつってんだろがぁ!!」

女「ひゃ!? 大声出さないでよ……」

男「くそ……もう完全に嫌いになったよ。女さんなんか大嫌いだよ」

女「……ツンデレ?」

男「ああ!?」

女「ひーん……怖いよぅ」

男「くそ、くそっ……やっと来たか。遅ぇんだよ」

女「もう電車来ちゃったの? わたしもあれに乗ろうかな……」

男「何でだよ?」

女「男くんの家まで――」

男「………………」

女「黙って行かないでよぅ。今日は一緒には行かないから、いつもみたいにさよならって言って?」

男「……さよなら」

女「うん、また明日ね!」

男「……くそ」






77: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 23:13:50.36 ID:n2w1KrsP0




女「今日も手、繋ごう?」

男「嫌だよ。もう勘弁してよ……」

女「でも逃げないんだね。はい、にーぎにーぎ」

男「くすぐったいから止めて」

女「やーだよぅ。逃げないってことは、男くんもわたしといたいんでしょ?」

男「いたくないよ。僕は真っすぐ帰ってるだけ」

女「ふふっ、ツンデレツンデレ」

男「違うって言ってるだろ。デレてないし」

女「デレてるよぅ。男くんは逃げてないもん。デレデレだね」

男「デレデレは女さんだろ? 僕が逃げないからって調子に乗らないでよ」

女「嬉しいでしょ? 可愛い女の子にデレデレされて」

男「この人自分で可愛いって言っちゃったよ……」

女「わたし、可愛くない?」

男「……いや」

女「可愛い?」

男「う、うん……」

女「いひひ……良かったぁ」






78: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 23:14:57.57 ID:n2w1KrsP0



男「……女さんはどうして僕が好きなの?」

女「知りたい?」

男「知りたいから訊いたんだよ。僕には君の思考が理解出来ない」

女「うん……一年の頃はね、わたし自転車通学だったけど、雨の日は電車を使ってたりしてたの」

男「へぇ、そうなんだ?」

女「たまに駅とか、駅と学校の間とかで男くんを見かけてたんだよ? 男くんはその時から考えごとしてたみたいで、わたしに見向きもしなかった」

男「あぁそう。それはそうだな」

女「去年の夏か秋くらいからね、気になってたの。男くんは外見は結構カッコかわいい系だから、気にしてる女の子も多いんだよ?」

男「……そう」

女「ふふっ、照れてる?」

男「照れてない」

女「ふふふっ……わたしも最初は外見からだったかなぁ。でもね、男くんと話すと、内容は難しいけど楽しいの」

男「話し始めたのは最近だろ?」

女「そうだよ。好きで好きでデレデレになったのは最近だね。その前はちょっと気になってただけだったかな」

男「はぁ、あの時話さなけりゃ良かったのか……」

女「後悔したってもう遅いよ? 男くんのことは大体わかったもん。わたしから押して押して押しまくれば、折れてくれるって」

男「何でも押され過ぎれば折れちゃうよ。特に僕は強い人間じゃないから」






79: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 23:16:08.58 ID:n2w1KrsP0



女「そうなんだ。じゃあ、もっと押せばもっと先にも行けちゃうかな?」

男「もっと先? 僕の家には上がらせないよ?」

女「わたしの家もいっつも誰か居るから駄目だなぁ……ホテルにする?」

男「……何の話になった?」

女「先に行く話。今日行っても良いよ?」

男「エロ禁止っつったろ」

女「男くん、怒ると口調が悪くなるんだね? 初めて知ったよ」

男「君が黙ってれば悪くならない」

女「お話したいもん。黙らないよ」

男「じゃあ少なくともエロは禁止」

女「男くんといると抑えられないよぅ。手を繋いでるだけでね、わたし下着が――」

男「黙れ発情猫が」

女「ひーん……酷いよぉ……」

男「エロ禁止って何回言わせんだよ。もう手を離せ……おいっ」

女「やぁだぁ! この時間はわたしのものだよ。くれるって言ったじゃん? 絶対離さないもん」

男「じゃあ僕の気分を損ねるな」

女「うぅ……頑張ります」






80: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 23:17:43.56 ID:n2w1KrsP0



男「はぁ……早く電車が来ないかな」

女「よいしょ」

男「座る場所が近い。暑いんだから離れてよ」

女「このホームの待合室っていつも誰も居ないよね。二人っきりだね」

男「改札の待合室はエアコン効いてるし、こんなボロ小屋みたいなところは誰も来ないよ」

女「誰も来ないからいつも男くんはここに居たんだね」

男「そうだよ」

女「……ねぇ、キスしようよ。誰も見てないから恥ずかしくないよ?」

男「だから、エロは――」

女「全然エッチなことじゃないよ? 普通のことだよ」

男「付き合ってもない人間同士では普通することじゃないよ」

女「じゃあ付き合おうよ?」

男「嫌だよ。僕は君とも一緒にいたくない」

女「……わたしはどうすれば、男くんに好きになってもらえるの?」

男「そうだな……僕にもう話しかけてこなければ、一定の評価は出来るよ?」

女「……そんなの、無理」

男「じゃあ諦めて――んっ!」






81: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 23:19:01.20 ID:n2w1KrsP0



女「ん……ちゅっ」

男「……おい」

女「無理、無理、無理だよ諦めるなんて無理。だってこんなに近くに男くんがいるんだもん」

男「だからって――」

女「最初にキスしてきたのは男くんだったよ? キスしてくるな、なんて文句言えるの?」

男「………………」

女「わかったら、大人しくしてて……はむっ」

男「ん……む……」

女「は……む、ちゅっ……舌、出して……」

男「はぁ……あ、ちゅる……」

女「ん、ん、あ……ちう……はぁ、キス、気持ち良いね」

男「あぁ……」

女「はぁ……あ、また勃ってるよ……興奮してるの?」

男「これは生理現象……」

女「そっかぁ……わたしもね、またね、濡れてきちゃったんだ……」

男「……そう」

女「ねぇ? 触る?」






82: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 23:19:52.49 ID:n2w1KrsP0



男「君を?」

女「うん。良いよ……どこでも触って」

男「……止めとくよ。これ以上したら、後戻り出来なくなりそう」

女「一緒に行こうよ。戻る必要なんて無いから」

男「僕は……一緒にいられないよ。だって……」

女「……何?」

男「………………」

女「何、考えてるの?」

男「いや、何も……」

女「嘘だよ。わたし知ってるもん。男くんが考えごとする時、目の焦点が合ってないこと」

男「それは僕自身ではわからないことだなぁ。そうなんだ?」

女「うん、間違いないよ。一昨日そうだったから」

男「あぁそう」

女「うん……」

男「………………」

女「また、キス、しよ?」

男「……あぁ」






83: ◆hEntMxdkqA:2012/03/17(土) 23:21:01.01 ID:n2w1KrsP0



女「今度は男くんからして?」

男「……始めっから口開けて待ってるの?」

女「舌も出す? ねぇ、焦らさないでよぅ」

男「本当、女さんはエロいよね……んん」

女「はっ……ふっ、ちゅう……」

男「ん、ん……はぁ……む」

女「ぴちゃ……ちゅ……」

男「ちゅ、ちゅう……」

女「……んふ、男くんの電車、来ちゃうね」

男「うん、僕は行くよ」

女「……薄情者」

男「足りない分は帰って一人で処理するなりしてよ。濡れやすい女さん?」

女「うー、男くんだっていやらしいこと言うじゃん。ずっと勃たせてたくせに」

男「君には敵わないけどね」

女「……明日も一緒だよ?」

男「気が向いたらね。さよなら」

女「うん、また明日ね」






90: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 17:56:30.79 ID:LTlnOhGs0




男「始めの頃は駅の待合室だけだったのに」

女「少し前は校門から、だね」

男「今日は教室の前で待ってるんだ?」

女「待ってたよ。早く行こ?」

男「言われなくても帰るよ。でも手は繋がない」

女「学校出たら良いでしょ?」

男「……好きにすれば?」

女「ふふっ、デレが出ましたぁ」

男「近いよ。肩が当たってる。歩きにくいから離れて」

女「良いじゃん良いじゃん。嬉しいんでしょ?」

男「勘違いも大概にしてよ。僕は君といたくない」

女「そのうち離れたくなくなっちゃうって」

男「ありえないね。ていうか君の下駄箱はこっちじゃないだろ? 四組はこの裏?」

女「うん。男くんが履き替えるまで待ってる。逃げられたら嫌だから」

男「逃げないよ。普通に帰るし……よいしょっと」

女「じゃあわたしんとこ行こ。場所教えてあげる。ラブレター入れても良いよ?」

男「そんなの入れないよ」






91: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 17:57:30.27 ID:LTlnOhGs0



女「そうだよね、直接話した方が良いもんね」

男「そういう意味で言ったんじゃない」

女「……わかってるよ」

男「本当に?」

女「わかってる……わかってるから、何回でも言うよ。それで男くんに離れたくないって言わせてみせるから」

男「僕がそう言う可能性は無いよ。それでもやるの?」

女「可能性が無いっていう……アレも無いもん」

男「アレ……ね。証拠とかそういうこと?」

女「そう、それ」

男「あぁそう……僕が君とは一緒にいたくないってわかってるのに? 君の思考は本当に理解に苦しむよ」

女「わたしもね、男くんを不思議に思う時があるよ」

男「何が?」

女「……一緒にいたくないなら、逃げれば良いのに」

男「………………」

女「どうして逃げないの? わたしを避けないの? 無理矢理キスするより、わたしを殴って嫌いにさせた方が早いと思う」

男「僕は暴力は嫌いだよ」

女「わたしも嫌い。だからね、男くんがそういう人じゃないってわかって安心したよ」






92: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 17:59:06.66 ID:LTlnOhGs0



男「僕が暴力で訴えれば、君は離れてくれる?」

女「それは……わかんない」

男「僕はね、僕の嫌いなことはしたくないんだ。君と一緒にいるのは嫌い。暴力も嫌い。出来れば穏便に済ませたい。わかるね?」

女「わかんない」

男「………………」

女「そんなの知らない。わたしだって嫌なことは嫌。今は男くんと一緒にいたいからいるの。それ以外は嫌」

男「平行線、だな」

女「そのうち交わるよ。今は心がちょっと遠いだけ」

男「ポジティブだね。いつまでそれが続くかな?」

女「いつまでも続くよ。ここまで来れば誰もいないから、手、繋ごう?」

男「……はぁ」

女「溜め息吐いちゃ駄目。笑ってよ。嬉しいでしょ?」

男「笑う気分じゃない」

女「わたしに失礼だよ。にぎにぎするよ?」

男「してからするよって何だよ。そ、それ止めろって」

女「コレも弱いの? 男くんって耳も弱いし、くすぐったがりなんだね」

男「誰でもそうだろ? だからくすぐったいって」






93: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 18:00:12.82 ID:LTlnOhGs0



女「何かこの待合室に来るとさ、ちょっと緊張するよ……」

男「またかよ……止めろって」

女「もうね、毎日これが楽しみなの。はぁ、良いよね……?」

男「良くないよ。息が荒い……お、おいぃ」

女「は、む……ちゅ」

男「……くっ、離れろって! おわっ!」

女「何で……何で何でどうして!? 昨日はしてくれたじゃん!?」

男「僕の上から降りろ! 僕はしたくないんだよ!」

女「……どうしても、好きになってくれないの?」

男「ならないよ」

女「………………」

男「ならない。僕は……死んでしまうから」

女「……何?」

男「僕だって君だって、いつか死ぬよ。だったら、意味無いじゃないか……君を好きになったって、意味が無いよ」

女「そんなの……」

男「君だって理解出来るだろう? 二本の線はどこかで交わっても、いつか途切れてしまうよ。永遠には続かない」

女「だからって……今を放棄するの?」






94: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 18:01:45.38 ID:LTlnOhGs0



男「今を放棄しなくても、いつか消えてしまう……かもしれない」

女「………………」

男「未来なんて知らない。ここにあるのは今だけ。けど、今すらもいつか失う。いつかの今に、それまで持ってたものを全て失う」

女「……わかんないよ」

男「ごめん、とりあえず降りてくれる?」

女「もうちょっと……キス、してくれたら降りる」

男「……ん」

女「ふ……む……ぴちゅ」

男「う……舌、いきなり」

女「だって……」

男「ごほん、もう良いだろ? 降りてくれ。頼むよ」

女「お預けなんて嫌だよ。もっとしたいよぅ」

男「……もう良いわかったよ。僕から離れる」

女「え……嫌だよ。もっとしようよ……きゃっ!?」

男「ふぅ……押し倒された時ちょっと痛かったよ」

女「いたたた……わわっ、ぱ、パンツ見た?」

男「見たよ。どうせ見せパンだろ?」






95: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 18:03:03.21 ID:LTlnOhGs0



女「そうだけど……見せパンなんて知ってるんだ。姉妹いるの?」

男「………………」

女「な何で睨むの……?」

男「君と話していると昔を思い出すよ……君といると、絶望にいる自分を忘れてしまう」

女「何言ってるの……? 言ってることが中二病っぽいよ」

男「僕には知りたいことがある。でも今は知りえない。知る為の行動はいつでも起こせる。でも、君がそれを躊躇わせるんだ」

女「前に話してたこと……? 男くんの知りたいことって……」

男「君とキスしていると本当に気持ち良い。凄い快感だよ。すぐにイキそうになるくらいね」

女「あ、はは……そう? そうなんだ……」

男「そう。だから嫌なんだ。僕はずっと知りたいことについて考えていたいのに……。僕は、それだけを考えていたいのに」

女「……それ、何なの?」

男「僕はそれを知りえない絶望の中にいたのに、君が忘れさせるんだ。僕はそんな楽をしたくない。楽になりたくないんだ」

女「楽に、なればいいじゃん? 人間はみんな楽が好きだって、男くんが言ったじゃん?」

男「……もう決めた。僕は躊躇わない。僕は知る為の行動を取るよ」

女「……何するの?」

男「聞こえる? アナウンスが」

女「アナウンス……?」






96: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 18:03:55.03 ID:LTlnOhGs0



男「ホームに出よう。もうすぐ特急列車が通過するって」

女「特急? それがどうしたの?」

男「ほら、来てよ。良い夕焼けだ。明日は晴れかな?」

女「………………」

男「空が綺麗だね。空は存在が無いのに、いつも綺麗だよ。もしかしたら、存在が無いから綺麗なのかもしれないね?」

女「言ってる意味がわかんない……」

男「人間もそうなのかな? 存在を無くして、誰かの思い出の中にいる方が綺麗なのかもしれない」

女「どこまで行くの? そっちは電車止まんないとこだよ?」

男「ねぇ女さん? 君は、自分が死んだらどうなるかって考えたこと無い?」

女「何……それ?」

男「自分が死んで、この世界から居なくなったら一体どうなるんだろう……そんなことを考えたこと、無い?」

女「………………」

男「ねぇ、ある? 無い?」

女「……ある、よ」

男「そっか……」

女「それが何なの? 男くんは死にたいの?」

男「……ちょっと違うなぁ」






97: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 18:04:40.15 ID:LTlnOhGs0



女「違う……?」

男「……世界が赤いね。まるで血に染まったみたいだ」

女「ちょっと違うって……どういうこと?」

男「知りたいんだ?」

女「………………」

男「どっち? どういうことなのか知りたいの?」

女「わたし……知りたくない。けど……知りたい」

男「……くくっ」

女「そこは笑うところじゃないよ。どうして笑うの?」

男「女さんはやっぱり人間だよ。それは怖いもの見たさの好奇心だ。心霊写真が好きな小学生と同じだね」

女「わたしを怒らせたいの!? わたし、わたしは男くんのこと知りた――」

男「僕にはね、妹がいたんだ」

女「……は?」

男「四歳下の妹がいたんだ。女さんみたいな長い髪のね。いつも僕の後ろをちょろちょろしていて、可愛い妹だったよ」

女「どうして……過去形なの?」

男「聞きたい?」

女「……男くんくどいよ。わたしは全部聞く。そういう確認はいらないよ」






98: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 18:05:37.58 ID:LTlnOhGs0



男「あぁそう」

女「………………」

男「妹は……妹が小学四年生の時に死んだよ。交通事故で」

女「……っ!」

男「自転車に乗ってた。小学校から家に帰って、遊びに行く途中だった。ドラックが信号無視して突っ込んできたんだって」

女「それ、わたしと一緒……」

男「あぁそう。でも、君は生きてる。妹は死んだ。僕はそれから自転車に乗れなくなった……あんなに怖い乗り物は他に無いよな」

女「………………」

男「僕はショックだったよ。まさか妹がこの世界からいなくなるなんて考えもしなかったから」

女「そんなの当たり前だよ……家族が突然死ぬなんて、誰も考えないよ」

男「そう……でも、妹は死んだ。それからだよ、僕が色々考えるようになったのは」

女「妹さんが死んでから……?」

男「妹はどこへ行ったんだろう? 妹はどうして死んでしまったんだろう? 妹は幸せだったのかな? ドラックはどうして信号を無視したんだろう?
  トラックはどうして妹に突っ込んだんだろう?」

女「男くん……」

男「問いに答えなんて無いよ。この世界に、答えなんて無い。考えるだけ無駄だ。それでも僕は考えずにはいられなかった」

女「………………」

男「そのうち、一つのことばかり考えるようになった。やっぱりこの世界に答えの無い、馬鹿らしくて単純なことをね」






99: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 18:06:42.71 ID:LTlnOhGs0



女「それって……何?」

男「……死んだら」

女「………………」

男「人間は死んだら、どうなるんだろう?」

女「死……」

男「どうなるか……君は、知ってる?」

女「それは……死んだら天国に……」

男「天国? それは本当にあるの? 今まで天国を見たことのある人はいないって話だよ」

女「天国か地獄かあの世か……死んだ人はみんなそのどれかに行くの……?」

男「わからない、でしょ? みんな知らないでしょ? 生きてる人は、死んだことが無いんだから」

女「知らない……わたしは死んだことないから」

男「そう。死んだ人はこの世界には居られない……それがルール。だけど、僕は知りたい」

女「え……?」

男「僕は僕が死んだらどうなるのか。それが知りたい。だから……死んでみたい」

女「……駄目だよ」

男「ほら、見えるよ。僕にとっての希望が、もうすぐ来るよ」

女「希望……? あ、あぁ……!!」






100: ◆hEntMxdkqA:2012/03/18(日) 18:08:12.08 ID:LTlnOhGs0



男「このプラットホームはまだ死というもの知りえない絶望という場所なんだ。そしてこの端は、絶望の縁だ。ここから希望に飛び込んで、僕は死を
  知ろうと思う」

女「そんなの駄目だよ……許さないよ……」

男「死は人間の知識欲が辿り着く終着駅だよ。そこに何があるのか、知識を求める旅人はそれを知りたくて絶望の縁から飛ぶんだ」

女「駄目……だめだよ! そんな、そんなの許さないっ!!」

男「……じゃあ、君は。僕が死を知らないまま、ずっと絶望の中で苦しめば良いと思っているのか?」

女「そんなの……違うよ。ここは絶望じゃない。絶望なんかじゃないよ……」

男「答えの出ないことを考え続けて疲れてしまった。そんな僕を、君が許さないのなら選んでよ……ほら」

女「……な、何?」

男「手を出してよ。ほら」

女「あ、あ、何で……いや、引っ張んないで……」

男「君を道連れにするつもりはないよ。でも、このままだと君も危ないよ?」

女「や……い、嫌だよ……駄目だよ。や、やめて……」

男「もうそこまで来てる……時速百キロは超えてる特急だ。あれなら確実に死まで辿り着ける」

女「怖い……怖いよ! ま、またぶつかるよ!」

男「……ほら、これで君は僕の手を離せば助かるよ? でも、手を離せば僕は線路に落ちる。そのままこの世界から消えて死を知るんだ」

女「いや……いや……いや……嫌だよ……いや、いや……嫌だ……」

男「ねぇ……君は、僕の手を離してくれる? それとも……また絶望に引き摺り込む?」

女「あ……あ……あぁ……」

男「ねぇ……どっち?」

女「あぁ……いや……嫌だよっ!!」






103: ◆hEntMxdkqA:2012/03/19(月) 00:44:32.68 ID:QfIqHhgb0



男「………………」

女「ひゃあぁっ!!」

男「……まだ、僕は絶望の中……か」

女「はっ!! はぁっ!! はぁ、はぁ……」

男「君は僕に、まだ絶望に浸れと言うんだね……」

女「はぁ……こわかった……ふぇぇ、こわかったよぉ……ぐすっ……」

男「泣いてるの? あれがそんなに怖かったの?」

女「こ、こわい……こわいよぉ……ぐすっ、も、もうぶつかるの、いやだし、お、男くんがいなくなるのも、こわいのぉ……」

男「僕が居なくなるのが……怖い?」

女「……い、生きてる? ちゃんと、男くん、生きてる?」

男「君が選んだんだろ? 僕を絶望に引き摺り込んだ。僕の希望は、今回は行ってしまったよ」

女「あれは希望なんかじゃないよ……あれは絶望だったよぉ……」

男「君には絶望に感じたんだね?」

女「怖かった……絶望が目の前に来てた……やだよあんなのぉ……ひっく」

男「泣かないでよ。僕は女さんを泣かす為に手を取ったわけじゃないよ」

女「何で……何でわたしに、ひっく! あんなこと……」

男「ほら、泣かないで?」






104: ◆hEntMxdkqA:2012/03/19(月) 00:45:47.78 ID:QfIqHhgb0



女「ぐすっ、な、何で急に優しくするのぉ……わたし、わたしほんとに怖かったんだからぁ……」

男「死を恐れるのは人間として正しい反応だよ。君はやっぱり、人間だね」

女「すん、すん……お、男くんは怖くなかったの……?」

男「あれが目の前に来た時、僕は期待した。ようやくわかるって。君が手を離してくれて、向こう側を知ることが出来るって」

女「そんなの駄目……わたしがこっちにいるんだから、こっちに居なきゃ駄目……」

男「死ぬまで絶望に居ろと、そう言うんだね……」

女「この世界は絶望じゃないよ。こっちは、こっちの世界は、男くん次第でどうにでもなるよ……」

男「……僕、次第?」

女「だって、だって男くんが、し、死ぬことを知らないことが絶望だって思うんなら、そうじゃない考え方だってきっと出来るもん」

男「あぁ、そうかもね。僕は死を知ることが出来ないことを絶望だと思ってる。それを違う風に置き換えることも、出来なくはないかもね」

女「出来なくはないじゃ駄目なのぉ……しなきゃ駄目!」

男「命令?」

女「そうだよ! 命令だよっ! 死ぬまで生きなきゃ、死んじゃ駄目!!」

男「……どういう意味だそれ?」

女「とにかく駄目なの!! 男くんが何回死のうとしても、わたしが何回でもこっちに引っ張るんだから!!」

男「ずっと、僕をこっち側に居させる気なの?」

女「そうだよ! わたしとっ! 一緒にぃ! 死ぬまで一緒に居させるんだからぁ!!」






111: ◆hEntMxdkqA:2012/03/20(火) 01:56:30.16 ID:bVVwwQbb0




男「……あちぃな」

女「おまたせ、男くん」

男「ん、僕も今来たとこだよ」

女「……ふーん、男くんの私服姿、初めて見た。結構普通だね」

男「あぁそう……まぁそうだろうね。休日に会うことも無かったし。僕も女さんの私服は初めて見たよ」

女「どうかな? わたし変じゃない?」

男「普通のシャツとジーンズの組み合わせで変にはならないと思うよ?」

女「むぅ、正論過ぎるのは好きじゃないよ」

男「似合ってるよ」

女「テンプレ通りだね。それもつまんない」

男「じゃあ何て言われたいの?」

女「それをちゃんと考えて。ちゃぁんとわたしを見てよ?」

男「ふぅむ……」

女「……そ、そんなにじろじろ見られると恥ずかしいな」

男「見ろって言われたから。そうだな……うん」

女「何? 何かある?」

男「……服でも見に行く?」






112: ◆hEntMxdkqA:2012/03/20(火) 01:57:22.57 ID:bVVwwQbb0



女「……意外。うん、良いよ。行こ行こ」

男「正解だったか。良かった」

女「おまけで正解にしておいてあげる。ちょっと甘めの採点でね」

男「あぁそう。上から目線だな……僕もそういうのは嫌いだ」

女「ふーん、男くんは自分が上じゃないと嫌なの?」

男「んん、自分が上に立つのも嫌いだな。そもそも他人と関わりたくないし」

女「じゃあわたしとは対等の関係ってことで」

男「そうだね、それが一番楽かな」

女「楽……楽か。ねぇ、男くんは今楽しい? 初めてのデート」

男「………………」

女「どう、なのかな?」

男「楽しい、とは、まだ感じない。けど苦しくはないよ。死を知りたくて苦しかった頃よりは楽だ」

女「……うん、最初はそれで良いよ。だんだん楽しくなるから」

男「あぁそう」

女「『あぁそう』は禁止! そこ言葉で結構傷付くんだからね!?」

男「あぁそ――」

女「駄目って言ってんでしょ!! わざとでしょ!?」






113: ◆hEntMxdkqA:2012/03/20(火) 01:59:07.13 ID:bVVwwQbb0



男「女さんはどんな服が好き?」

女「わたしはね、えーと、あんまりギャルっぽいのは駄目なんだ」

男「あぁ……ごほん、そうなんだ。僕としてもそういう格好はあまり目に入れたくないな」

女「……で、いっつもジーンズばっかり。たまには違うのも着てみたいなぁ」

男「フリフリのスカートとか?」

女「……そういうの好きなの?」

男「そうだなぁ……君のそういう姿も見てみたいな」

女「無理無理! そんなの無理だよ恥ずかしいよ!」

男「そう。残念だな。絶望したよ」

女「………………」

男「あぁもう世界は絶望だぁ……また特急に飛び込むしかないなぁ……」

女「男くん、冗談でもそれは言っちゃ駄目。駄目だよ。許さないよ」

男「冗談だと思う?」

女「……その目、止めてよ。ほんとにやりそうで怖いの」

男「何度僕が死のうとしても、何度でも絶望に引き摺り込むんだろ?」

女「そうだよ。もしわたしの居ないところでそんなことしたら、わたしも死ぬから。それで、捕まえて引っ張ってこっちに戻るからね」

男「くっくっ、本当にやりそうだね、君は」






114: ◆hEntMxdkqA:2012/03/20(火) 01:59:44.16 ID:bVVwwQbb0



女「夏休みさ、どこか行かない?」

男「どこかって?」

女「二人で、当ても無く旅に出るの。それって青春じゃない?」

男「確かに青春っぽいけど、お金あるの?」

女「貯金なら少しあるから。むしろお金なんて気にしないっ。二人で一緒っていうのが重要なんだよ」

男「あぁそう……それは良いけど、宿題も結構出そうだから早めに終わらせよう」

女「それも二人で一緒にやろうよ? 七月中には終わらせて、八月に旅に出よう?」

男「そうだな……行った先で何か見つかるかな?」

女「きっと見つかるよ。きっと、希望が見つかるよ」

男「希望……か。それは今も近くに居るよ」

女「うん?」

男「『のぞみ』。君の名前」

女「……うん」

男「一緒に、居てくれるの?」

女「うん、居るよ。わたしが死ぬまで居るよ」

男「先の長い話だね。未来なんてわからないのに」

女「未来がわからないなら、今、一緒に居ることを考えれば良いんだよ」

男「……手、繋いでくれる?」

女「もっちろん! 絶対離さないからね!」






115: ◆hEntMxdkqA:2012/03/20(火) 02:05:32.85 ID:bVVwwQbb0



以上で完結とさせて頂きます。お読み頂きありがとうございました。

また今度違う物語を書こうと思いますので、その時はよろしくお願いします。

ではまた。






118:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/03/20(火) 03:30:22.17 ID:PVFxRHiD0



>>1おっつ!






119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/20(火) 08:09:43.74 ID:eE1nA/UDO



超乙

次回作も絶対読みたい。お疲れさま。






120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/03/20(火) 11:00:17.69 ID:iHtS3rzW0




とても面白かった。次回作に期待!



引用元
女「電車が来るまで話そうよ」 男「はい?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1331482020/
[ 2012/04/22 10:40 ] 男女SS | TB(0) | CM(0)
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